初版公開:2026年10月9日
※公開後、事実関係に関わる修正・追記を行った場合は、こちらに履歴を記載します。

2024年10月9日。福岡県議会9月定例会の閉会日、私は2期、約6年間務めた福岡県議会議員を辞職しました。あれから2年。いま、福岡県議会をめぐる一連の金銭授受問題が大きく報じられています。元県議として、警察やメディアの方にまで様々に聞かれる中で「何か発信すべきなのか」ずっと迷ってきました。
知っていることもあれば、知らないこともあります。報道だけで誰かを断罪することも、全面的に擁護することもできません。しかし、かつて同じ糟屋郡から県議会に送り出された吉松県議が声を上げています。そして私自身にも、県議時代に耳にした話や、議会の中で感じていたことがあります。
それなら、いつまでも黙っているのも違うのではないか。そう考え、書き残すことにしました。
◆私も「500万円」という話は聞いていた…
まず、明確にしておきたいのは、議長や副議長などのポストを得るために金銭の授受が行われていたのであれば、絶対に許されないということです。受け取った(要求した)側はもちろん、支払った側についても、事実関係に応じた責任が問われるべきだと思います。
その大前提に立ったうえで、私自身の経験をお話しします。県議2期の当時、私は次のような話を都市伝説のように耳にしていました。
「3期目で副議長候補?その時には500万円の現金が必要になる。」
あまりにも現実離れした話だったので、
当時、妻にも話したことを覚えています。ただし、私は実際に500万円を要求されたわけではありません。そのような仕組みが存在したと断定できる立場でもありません。あくまで、私自身が当時そういう話を聞いていたということです。今回、さまざまな証言が表に出てくる中で、あの時の話を思い出さずにはいられませんでした。
◆なぜ「断れないのか?」
「そんな金を要求されたら、断ればいいじゃないか」当然そう思います。
しかし、県議会の中にいた人間として、
それだけでは片付けられない怖さも感じています。
政治家にとって、自分自身が「冷遇」されたり、「批判」されたりすること「攻撃」されることは、ある程度「覚悟」しなければならないこと/していることです。
でも、議員にも家族がいます。支援者がいます。
そして何より、議会へ送り出してくれた地元があります。
もし自分が慣例に逆らったことで、
地元の声が届きにくくなったら…
地元自治体の要望や事業に影響が出たら…
家族や支援者に迷惑がかかったら…
もちろん、実際にそんな冷遇があったと断定している訳ではありません。
しかし、「自分が断ったことで、地元に不利益が生じたらどうするのか」
そう考えてしまう心理は、地方選出の議員として理解できます。
(実際にそれをチラつかせる人がいることも事実。直近の簗大臣の発言)
ここで具体的な体験談を書くことはしませんが、
私の実家は犬猫病院(地道に40数年、両親が営んできた小さな病院)
ですが、非自民会派であったため、思うように質問ができなかったり、
考えられない県職員の対応や先輩議員の言動も多くありました。
さらに、地方政治には独特のプレッシャーがあります。
県議を何期も務めると、
地元では「そろそろ副議長だ」「次は議長だ」という期待が生まれます。
一方で、そのポストに就けなければ、
「3期もやって副議長になれなかった〇〇⇐暴言」
「4期もやって議長になれない〇〇⇐暴言」そんな言われ方をします。
私は、同じ糟屋郡選出の先輩県議お二人が、
実際にそうした評価を受けてきた姿を見てきました。
政敵が煽り、それが首長、町議や支援者、地域へと広がっていく。
本人の能力とは別のところで「力のない県議」「役立たずの県議」という
イメージが作られてしまう。「結果、地元が発展しない」とまで言われる。
私は、これも一種の風評被害だと思っています。
◆議長や副議長は、本人の「メンツ」だけか
「議長」や「副議長」になりたい。
それが単なる名誉欲なら、本人が諦めれば済む話かもしれません。
しかし、地方選出の県議にとっては、必ずしもそれだけではありません。
地元から県議会議長や副議長が誕生する。古い言葉ですが、「故郷に錦を飾る」という感覚に近いのかもしれません。自分を送り出してくれた地域に、優勝旗を持ち帰るような気持ちでしょうか。私自身は経験していないので、あくまで推察ですが…。
県議会には87名の議員がいます。その中で、自分の地域から議長や副議長が誕生する機会は、そう何度も巡ってくるものではありません。地元から県議会の要職者が出ることは、県の執行部や地元自治体との関係においても、地域にとって意味があると私自身も考えています。だからこそ、仮にポストをめぐる金銭的な圧力が存在したのであれば、単なる個人の「メンツ」の問題では済まされないのです。そこに大きな問題があるように思います。
そもそも県議会以外で「メンツ」という言葉はあまり使わないように思います。
私は県議会を去り、別の道を選んだ
私自身、非自民の同期議員の中では、比較的早い時期に委員長職を経験しました。常任委員会ではなく特別委員会でしたが、正副委員長を務める機会をいただきました。当時、懇親会や視察などに伴う費用負担もありましたが、
(納得して負担していました)今思えば不適切な支出も含まれていたと思います。
そのまま県議を続け、期数を重ねていく道もあったと思います。
しかし私は県議会を去り、地元・篠栗町の町長選挙に挑戦しました。
最大の理由は、県議として政策提案や県への要望を重ねるだけでなく、
自分自身が自治体の責任者となり、もっと直接、地元のために働きたいという思いがありました。
ただ、今回の問題を見ながら当時を振り返ると、別の気持ちもあったように思います。そんな金を払ってポストを得るくらいなら、地元に直接尽くした方がいい。そして、このまま県議会にいたら、自分もこの世界に飲み込まれてしまうのではないか。同じような懸念を口にしていた同期議員もいました。
長くいればいるほど、いつの間にか「そういうものだ」と受け入れる側になってしまわないか。県議会の中にいて、本当に県議会そのものを変えられるのか。私には、その難しさを感じる場面がありました。
だから私は、県議会でさらにポストを目指すのではなく、
地元に直接責任を負う道を選びました。
◆吉松県議でなければ、私も沈黙を続けた
もう一つ、正直に書いておきたいことがあります。
今回、声を上げたのが糟屋郡選出の吉松県議でなければ、
私は今も黙っていたかもしれません。
吉松県議とは、同じ糟屋郡選出の県議です。
私より期数も長く、政治的な立場も異なりましたが、党派を超えて県議会や地元のことなど、さまざまなことを教えていただきました。
大変お世話になった先輩です。
もちろん、良い面ばかりを見てきたわけではありません。
当時、吉松県議は最大会派、私は第二会派に所属していました。
「最大会派はずいぶん厚遇されているな」と感じる場面も実際にありました。ですから、吉松県議を無条件に擁護するつもりはありません。
告発した側だからといって、すべてが許されるわけではない。金銭授受について責任があるのであれば、そこはきちんと向き合うべきだと思います。
(実際に向き合われているものと見ています。)
そのうえで、同じ糟屋郡から送り出された県議が、これほど大きな問題について実名で声を上げている。
その行動には、地元の有権者の一人として敬意と期待を持っています。
そして元県議として、その怖さも少しは分かるつもりでいます。
◆県議会に「自浄作用」はあるのか
今回、第三者による調査が進められています。客観的に事実関係を明らかにすることは、もちろん重要です。しかし、それだけで十分なのでしょうか。
県議会では、議員個人だけでなく、「会派」という組織の中で活動することになります。組織としての規律や事情があり、個人が自由に発言しにくい場面もあります。それでも、個人が声を上げることすら難しいのであれば、せめて会派として声を上げてほしい。
第三者に調べてもらって終わりではなく、
自分たちは何を知っていたのか。何を知らなかったのか。
何を反省し、何を変えるのか。
現職の議員自身が、自分たちの言葉で県民に説明してほしいと思います。
それこそが「自浄作用」ではないでしょうか。
私は県議時代、「今の状況を変えなければならない」と話していた他会派の同期議員や、『悪しき慣例』から後輩たちを守ろうとしてくれた先輩議員の姿も見てきました。少数だとは思いますが、そんな議員たちの存在を知っているからこそ、県議会自身が変わることに心から期待しています。
(彼らが沈黙する理由を少しでも代弁できていれば嬉しいです。)
今回の問題は、「誰が払った」「誰が受け取った」という事実解明だけで終わらせてはいけません。
なぜ払ってしまうのか。なぜ断れないのか。
なぜ長年、声を上げられなかったのか。
そこまで明らかにしなければ、仮に誰かが責任を取ったとしても、
同じような政治文化が形を変えて残ってしまうかもしれません。
◆沈黙を終わらせるために
県議会を去って2年。まさか当時耳にした「500万円」という話を、こんな形で再び考えることになるとは思っていませんでした。
私には、知らないことがたくさんあります。
だからこそ、知らないことを知っているように話すつもりはありません。
知っていることは、知っている。知らないことは、知らない。
そして、自分が経験したことは、自分の言葉(責任)で話す。書き残す。
この記事を公開することに、どれほどの意味があるのかは分かりません。
むしろ、黙っていた方が楽なのかもしれません。
それでも書くのは、過去へのけじめです。
そしてもう一つ。私はこれからも、元県議としての経験も生かし、
今、務めている会社や地域、社会のために働いていきたいと考えています。
誰かを批判するときだけ声を上げ、自分がいた場所の問題には口を閉ざす。
民間企業に勤める現在、そんな政治家だったと部下や同僚に言われたくありません。家族や支援してくださった皆さんにもそう思われたくありません。
今回の問題が、誰かを処分して終わるのではなく、
福岡県議会そのものが変わるきっかけになることを願っています。
過去へのけじめであると同時に、これからの自分への約束でもあります。
2026年10月9日
元福岡県議会議員 冨永よしゆき



























































































































































































